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メモリーズ ~第二章 発見~


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第二章 発見

 

今日は四月二十三日だ。

今日も朝からずっと、電話越しで媚びて、断られの繰り返しであった。

上司や先輩からもいつも以上に嫌みを言われ、説教もされた。

この会社の定時は十七時半と一般的だが俺達にとっては都市伝説である。

 

今日は何とか六件取れた。

この会社の一日のアポのノルマは五件だ。

勿論達成しない日もある。

そういう時はツケといって翌日以降にノルマが回されるのだ。

しかし、定時までにアポを五件取らなければ、ノルマを達成するまでは残業となる。

そして、残業の最終時刻である二十一時まで粘り、それでも五件に満たなかったら、その借金分が翌日以降に回されるのだ。

 

しかし、もし定時までにノルマを達成出来ても残って仕事をしても良い。

その判断は任意に決められるのだ。

本当は残業なんかしたくはないが、今日も定時までにノルマを達成したのにもかかわらず俺は敢えて残業をした。

その時間で取れたアポ数を次の日のノルマから、引けるからだ。

 

今日は残業した二時間でもう一件アポを取れた。

つまり、俺は明日四件アポを取れば、一日のノルマは達成されるのである。

更に、残業手当も雀の涙程ではあるが一応は出る。

今日の二時間の残業で夕食代位は稼いだ。

残業時間で例え、アポを例え取れなくても、残る価値は一応あるという事だ。

そして、土日は基本的には休み。

有給休暇も一応はある。

それがまだブラックさを低減しているのだと思う。

 

しかし、月のノルマを達成出来なければ、この会社では減給があるのだ。

それが長く続けばクビにされた人間もこの一年で三人もみてきた。

兎に角、今月は四月の勤労日数である二十一日×五件=百五件のアポを取らなくてはならない。

これは相当ハードルが高いと思う。

 

しかし、今日は貯金一だ。

今月は今日で通勤日数が十六日目なのだが、ここまで通算八十七件つまり、貯金七だ。この会社では相当優秀な部類に入る。

自分でも良いペースで進んでいる。

 

しかし、それでも一つ難点があるのだ。

それは月の貯金は来月にはその分を繰越できないのだ。

理由は一旦、月初めで営業部の人間全員の気持ちをリスタートさせ、気を緩ませずに危機感を持たせ、仕事に打ち込ませる為だとの事。

つまり、山野のような無能の救済措置として先月の借金も月初めにチャラに出来るのだ。

しかし、当然、そうなれば減給もあり、解雇の可能性も出て来るのだが。

不満だが仕方がない。それがこの会社のルールだ。

しかし、月の貯金一に千円給料に加算される事がまだモチベーションを保つ要素だ。

最近は俺達の中で山野の解雇可能性の向上も愉しみの一つである。

 

俺は毎日金の為だけに頑張れている。

自分の力で幾らでももっと稼げるのだ。

先月はそれで八千円稼いだ。

そういうアメとムチが上手い会社だから、ここまで潰れずにやっているのだと思う。

 

俺は聞く、話すのは上手かったらしい。

自分ではその自覚はなかったが、この会社に入って周りから結構そう言われた。

案外話すのは天職かもしれないが、この会社で一生働くのは勘弁だ。

良いタイミングがあれば転職はいつでも視野に入れている。

しかし、今は我慢の時だ。

そうしなければ、この先食べて行けないと自分でも思っているからだ。

 

今日は仕事をした感じがした。

珍しく、何か充実感みたいなものが俺の体に纏っている。

気分良く俺はアパートへ帰る為、森下駅へ向かった。

 

この帰り道もすっかり馴染んでしまった。

会社からどの位の時間で駅に着くのかが正確に判る。

すれ違う人間の顔もだんだん覚えてきた。

この道を歩くのももう生活の一部だと実感する。

 

突然、俺の腹の中でサインが鳴った。

脳が俺にエネルギーを補給しろと命令している。

今日の闘いですっかりエネルギーを使い果たしてしまった。

帰りにあの行き付けのラーメン屋に寄って行こう。

そして今日も黄金コンビを頼もう。

半チャーハンと醤油とんこつラーメンだ。

この二つの相性が抜群に良い。

俺は行きつけのラーメン屋に早く向かう為、歩くスピードを上げた。

 

今日の日中の最高気温は十七度だった。

そよ風が気持ち良い。

半袖だったら、肌寒い。

スーツ姿の俺にとって丁度良い気温だ。

周りを見渡すと半袖姿の者もいる。

恐らく今、後悔しているだろう。

高みの見物だ。

そう思いながら俺はラーメン屋を目指し、森下駅へ急いだ。

 

しかし、その五分後、思わぬ事態に巻き込まれる事などこの時はまだ思いも寄らなかった。

それは後、三分程で森下駅に着く事の出来事だった。

 

・・・・・うっ・・・・・ううう・・・・・

 

うん?

どこからか何やら聞こえて来ないか?

 

・・・・・なんだ、この怪音は・・・・・男の声か?

 

・・・・・うっ・・・・・ううう・・・・・

 

・・・・・男の呻き声だ。間違いない。

・・・・・この奇声の正体は人間の男の呻き声だ。

・・・・・気味が悪い。

 

・・・・・どうする?

このまま看過するか?

・・・・・いや、気味が悪いが行かなくてはならないだろう。

周りには他に人はいない。

正直怖いが気にはなるし、もし、これが助けを求めている合図だとしたら行かなくてはならないだろう。

 

俺は勇気を出して、呻き声のする方へゆっくりと足を進めた。

だんだんと呻き声が大きくなって来た。

暫くして、俺は立ち止まった。

どうやら、森下公園からしているようだ。俺は公園の中を凝視した。

 

・・・・・うん?

何だ。

あのさっきから動いている大きな物体は?

・・・・・おっ、男が藻掻きながら倒れているではないか!

 

今までの人生で観たこともない姿に俺の足は竦んでいる。

 

・・・・・助けに行かなくては。

 

しかし、俺の体が硬直してしまった。

脳が命令を出しているが体が言う事を聞いてくれない。

初めての事で体が拒絶反応を起こしているのか?

しかし、そんな事言っていられる状況ではない。

今ここ動ける人間は俺しかいない。行かなくては。

 

・・・・・動け!俺の足!

 

そう、脳が神経に命令すると俺は男の元へ駆け寄った。

 

「おっ、おい、大丈夫か!」

「・・・・・うっ・・・・・ううう・・・・・」

 

近づいて声を掛けるが、相変わらず藻掻きながら呻き声を発するだけである。

その男の顔を良く見ると口から泡を吹いている。

指と口は小刻みに震えている。

詳しくは分からないが毒なようなものを摂ってしまってこうなってしまったんだろう。

暗くてはっきりとは判らないが歳は二十歳そこそこか?

格好は半袖のTシャツ一枚にジーンズだ。

今日みたいな日にその格好では寒くないか?

いや、今はそんな事、気にしている場合ではない。

 

・・・・・うん?何をやっているんだ。突然、その男が腕を上げた。

 

「だっ、大丈夫か?」

 

それしかセリフが思い付かなかった。

しかし、その男はそれに答えずに、苦しみ藻掻きながら、指を空に向かって指を指している。

しかし、毒のせいで指が震えてしまって、安定していない。

一体その行為は何なんだ?

 

「おっ、おい、何が言いたいんだ?」

「・・・・・うっ・・・・・ううう・・・・・」

 

しかし、男は相変わらず、呻き声を発するだけである。

どうしたら・・・・・?

とっ、取り敢えず救急車だ。

冷静さを取り戻し、我に返った俺はスマホを尻ポケットから取り出し、119を押した。

 

しかし、第一声は何て発したら・・・・・?

向こうが誘導してくれるに違いない。

・・・・・そう悩んでいたら直ぐに出た。

 

「・・・・・きゅっ、救急です。人が倒れています。・・・・・ええ、何やら毒のようなものを摂ってしまったようにみえます。・・・・・ええ、そうです。・・・・・性別ですか?・・・・・男性です。・・・・・場所は江東区の森下公園です。・・・・・直ぐに来て下さい。・・・・・はい、宜しくお願いします」

 

そう伝えると、俺は終了ボタンを押した。

後、十分程で来られるらしい。

しかし、それまで俺は何をしたら良いのか?

解毒剤もある筈もないのに。

 

早く救急車が来る事を願うしかなかった。

この夜の肌寒さが興奮した俺の熱気を冷ましてくれる。

 

・・・・・あっ、そうだ。

これはもしかしたら、事件かもしれない。

だったら、警察にも連絡をしなければ。

俺は再びスマホを尻ポケットから取り出して、今度は110に掛けた。

 

「・・・・・じっ、事件です。公園で人が倒れています。・・・・・ええ、苦しみながら倒れています・・・・・若い男です。・・・・・場所は江東区の森下公園です。・・・・・犯人は判りません。・・・・・救急車はもう呼びました。・・・・・何やら毒のようなものを体に取り込んでいて・・・・・私は近くを通り掛った、第一発見者です。・・・・・はい、お願いします」

 

俺は震えながら電話を切った。

取り敢えず、最低限の役割は果たしたのだ。

後は、病院と警察に任せて

・・・・・しかし、そう言えばこいつ誰なんだ?

名前は?

 

俺は倒れている男の財布の中から免許証を抜き取った。

・・・・・生年月日は1998年9月21日生まれ、名前は古丸海斗らしい。

 

俺は古丸海斗の財布の中に免許証を戻した。

 

そう言えば、さっき警察に掛けた電話で勢い余って、「事件です」と言ってしまったが、本当にそうなのか?

まぁ、それは警察が後から調べれば判る事だろうが、気にはなる。

しかし、何でこいつは毒を摂ってしまったんだ?

状況から見て、自殺ではない。

なら、事故か?

いや、毒が勝手に体に摂ってしまった事故なんて聞いた事がない。

じゃあ、殺人だ。

しかし、だとしたら一体誰がこいつをこんな目に遭わせたんだ?

 

周りを見渡した。

周りに誰もいなかった。

俺は体の角度を古丸海斗に戻した。

 

・・・・・うん?

直ぐ傍に中身がこぼれた缶コーヒーが落ちているではないか。

こいつはこれを飲んでしまってこうなってしまったのか?

また周りを見渡した。

そして、近くには自販機があった。

 

もしかして、あそこから買ったのか?

 

俺はその落ちている缶コーヒーの銘柄を覚えて、自販機に近寄り、コーヒーのサンプルを見た。

案の定、同じ銘柄の缶コーヒーだった。

だとしたら、ここから買って毒かなにかを入れ、それを飲んでしまったのか?

 

「・・・・・うっ・・・・・ううう・・・・・」

 

そう推測した俺は再び、相変わらず呻き声を発しながら、苦しんでいる古丸に近づいた。

その様子を見た俺は愕然とした。

今度は全身が震えているではないか。全身が麻痺しているのか。

 

顔も暗くて良く見えないが真っ青になっている事は何となく判った。

その周りを良く見たら、古丸海斗が嘔吐した物と思われる汚物が散乱していた。

その刺激臭が俺の鼻に付く。

 

「もっ、もう直ぐ救急車が来るからな」

 

薄情者だと思われても仕方ないが、正直、こいつが死のうが死なないがどっちでも良かった。

所詮は他人だ。

そこまで人間出来ていない。

たまたま通りがかった人間としては最低限の事はやった。合格だ。

 

しかし、俺は次の自分がすべき行動を考えていた。

 

そして、十分後に救急車が現場に到着した。

しかし、古丸海斗は運ばれた病院で息を引き取った。

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